小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
歌における肺活量の重要性を耳にしたことがある方は多いと思います。
『ロングトーンを長く継続する≒肺活量』だと考えている方は、歌手の中にもボイストレーナーの中にも未だに存在します。
あるいは、「ブレない安定した発声にも繋がる」とか、「声量が上がる」といった副産物にまで期待する人さえいます。
強い呼吸ができる
パワーブリーズを使って呼吸筋を鍛えることで、強い呼吸ができるようになり、声量が上がることが期待されます。
呼吸筋トレーニングによって息を吸う力が向上すると、吸える空気の量が増えるので息を吐く力も同時に成長するのです。
息を吐くパワーが強くなれば、声量や声の届きやすさ、音域の広がりなどに良い影響を与えるでしょう。
歌声に深みが出たり、十分に響かせることができたりと、立体感のあるパフォーマンスにつながります。
息苦しさを軽減する
パワーブリーズで呼吸筋トレーニングをすることで、息切れなどの息苦しさを感じにくくなります。
呼吸筋を鍛えることは肺活量の向上につながるので、今まで息がもたずに歌いづらかった曲も、楽に歌えるようになる可能性があるでしょう。
鍛えられた呼吸筋は、自然な息継ぎや安定したロングトーンを使ってのびやかに歌えるようになりたい人のサポートをしてくれます。
https://utaten.com/karaoke/power-breeze/
ほんの一例ですが、上記は『カラオケUtaTen』さんの記事を抜粋して紹介させて頂きました。
因みにこれがパワーブリーズです。
B’z稲葉さんが使用を公言したことで、シンガーの間で一気に流行しました。
「稲葉さんはこれで鍛えているから、こんなに凄い歌声なのか」と考えた人が、五万と居たということでしょう。
ですが残念ながら、実際には「肺活量と歌唱力は関係ない」です。
これにはしっかりとした医学的エビデンスが存在しますので、説明していきます。
肺活量を鍛えるB’z 稲葉浩志
歌に肺活量は不要という根拠について説明する前に、先程も名前が挙がったB’zの稲葉さんについて、少し紹介させてください。
肺活量を鍛えるシンガーの代表格と言えば、この人ですよね!
彼が肺活量を鍛えたことで、日本に『ロングトーン≒肺活量』という概念を植え付けたと言っても過言ではありません。
実際にパワーブリーズを使って、肺活量を鍛えている様子です。
稲葉さんはプロのロックシンガーであり、ライブでステージを走り回りながら歌うことで非常に有名です。
歌唱力ではなく、ライブパフォーマンスの為に役立っているのですね。
MISIAが肺活量を医学的に否定
「肺活量と歌唱力は無関係」という話に戻しましょう。
テレビ朝日の番組『関ジャム 完全燃SHOW』にてMISIAが、「肺活量と歌唱力には因果関係アリ説」に終止符を打ちました。
MISIAと言えばそれこそ、「圧倒的な声量やロングトーン」といったイメージがあり、よく質問されるそうです。
「やっぱり肺活量を鍛えているのですか?」って…ですが、MISIAはこのように公言されています。
「同じ年齢の女性より肺活量は低い」と。では、なぜそう言い切れるのでしょうか?
その結果、同年代女性の平均値よりも低い数値が出るとのことでした。
そうです、MISIAが主観や憶測で勝手にそう言っているわけでは無く、しっかりと医学的に数値が出ているのです。
またMISIAは自身の発声について、このように語っています。
「空気を上手に震わせて音を上手に伝える。」と…つまりは、効率のいい発声を心がけているわけです。
「効率のいい発声」という話が出たので、ではどうすればMISIAのように効率よく声を鳴らせるのでしょうか?
実はこれ、シンガーズフォルマントと呼ばれる、周波数の音響特性を利用することで、解決するのです。
効率のいい発声‐シンガーズフォルマント‐
MISIAが言う「空気を上手に震わせて音を上手に伝える。」とは、どのようにすれば体現できるのでしょう?
そのために最も重要なこととして挙げられるのが、「声門の閉鎖が適切であること」です。
声門の閉鎖は、弱すぎると息漏れしてしまうので、ファルセットやウィスパーボイスといったエアリーな声になってしまいます。
逆に強すぎると、シャウトや“がなり声”のようなノイジーな声になるのです。
それらをあえて狙ってやるならいいですが、効率よく声を鳴らすためには、適切な閉鎖が重要です。
更に、高音を効率よく鳴らす為の概念として、シンガーズフォルマントと呼ばれるものがあります。
なにやら聞き慣れない難しい言葉ですが、本格的に歌を極めたい人は是非、上記の記事もご一読ください。
それこそMISIAなんて、このシンガーズフォルマントがバリバリ鳴るので、あんなに高音が突き抜けるのです。
根本要(スターダスト☆レビュー)の証言
2023年9月17日放送の、こちらもテレビ朝日『関ジャム 完全燃SHOW』にて。
プロ歌手も唸るロングトーンの持ち主、根本要さんが、ロングトーンについて貴重な証言をなさいました。
スターダスト☆レビュー・根本要はプロからロングトーンの歌声を絶賛されている。根本はそのヒミツについて「力を入れず、声をマイクに細く長く入れるだけ」と明かし、マイクの音量はスタッフに調節してもらっているため小さな音量で長く歌うことが可能だと話した。
https://datazoo.jp/tv/%E9%96%A2%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%A0+%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%87%83SHOW/1666716
「力を入れず、声をマイクに細く長く入れるだけ」とか、「マイクの音量はスタッフに調節してもらっているため小さな音量で長く歌うことが可能」ってことは…
つまり、効率の良い発声をされている証拠ですよね。
肺活量どころか腹式呼吸すら不要
そもそも何故、「歌には肺活量が重要」だと考えられてきたかというと、沢山の空気を取り込む為ですよね?
『たくさんの空気を取り込める≒ロングトーンで息が持つ・声量が上がる』と、安易に考えられてしまったわけです。
『腹式呼吸』なんて正にそれで、「たくさんの空気を取り込めるから歌に有利だ」というデマにより、日本のボイトレ業界に蔓延してしまいました。
ですが残念ながら、肺活量や腹式呼吸といった『たくさんの空気を取り込む』といった行為は、歌において効果がないどころか、むしろ悪影響さえ及ぼすことが分かっています。
空気をたくさん吸い込めば、その反動でたくさん吐き出そうとする力が働くからです。
(※詳しい根拠については上記添付の記事をご参照ください。)
ロングトーンや声量といった部分はある程度、生まれ持った身体的なスペックが占める割合が大きいです。
なんでもかんでも「トレーニングで伸ばせます!」と語る人は、少し疑ってかかる方がいいかもしれません。
大切なことはMISIAが語った通り、効率のいい発声を心がけることです。
まとめ
MISIAが語った医学的観点からの肺活量不要という事実、衝撃的ですよね。
確かにB’z 稲葉さんのように、肺活量を鍛えるシンガーも一定数存在します。
稲葉さんはプロのロックシンガーで、ライブのステージを走り回りながら歌われます。
ですのでスタミナ面から考えると、肺活量を鍛えることが決して無意味ではありません。
ただ、あくまで歌唱力という側面からのみ捉えるなら、肺活量は不要という話ですので、そこだけは念頭に置いておいて、歌の練習に励みましょう。