小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
ミックスボイスのNEXTブレイク?
最近、日本でも急激に耳にするようになった発声技法のベルティング。
ベルティングボイスの代表的な男性歌手・女性歌手を、それぞれ紹介させて頂きます。
「David Phelps」や「アヒョン」は、ベルティングの神です!
ミックスボイスブームが落ち着いた矢先には、果たしてベルティングブームが到来するのでしょうか…?
未だに「腹式呼吸」や「お腹の支え」などの非科学的、あるいは感覚的指導が蔓延(はびこ)る日本のボイトレ業界においては、ベルティングについての正しい知識、情報がまだまだ不足していると感じています。
そこで、この記事を読み進めて頂くことによりきっと、ベルティングについての理解を深めることが出来るはずです!
ベルティングには2種類ある?
私は、ベルティングは2種類の基準が混在していると考えています。
一つは※エスティル(EVT)基準の正真正銘、本物のベルティング。
EVTエスティルボイストレーニングとは、イタリア系アメリカ人ジョー・エスティル氏(1921~2010)が確立した、科学的なボイストレーニングメソッドです。
25年以上にわたる研究に基づいたメソッドは、今では世界中の舞台人から頼りにされています。EVTメソッドは、他の発声方法を否定するものではなく、「声のコントロールのためのフィギュア」と呼ばれる発声に関わる器官の働きとコントロール方法を学ぶものです。これらはEVT独自のもので、最新の研究でアップデートが続けられています。日常的なエクササイズを通して各器官のコントロール方法を学び、様々なジャンルやスタイルに対応する事が出来る、6種類のヴォイスクオリティーを習得する事も出来るようになります。
https://arttherapy.co.jp/estill/
もう一つは世間一般的にベルティングと呼ばれている、ミックスボイスの延長線上にある強い声で、いわゆる地声ミックスと呼ばれるモノです。
ミックスボイス≒ベルティングと言う人もいれば、ミックスボイスとベルティングは全く別物という人もいるのは、そのためなのですね…。
余談ですが、ベルティングのように声帯を厚く使った発声は、ビブラートが掛かりづらいという特徴があります。
それではそれぞれの違いについて、詳しく解説していきます。
エスティル(Estill)基準のベルティング
エスティルは上記で説明した通り、科学的な観点から研究されたボイトレメソッドです。
エスティル基準のベルティングは、次のように定義されています。
非常に難しいですが、骨や筋肉の名称などはどうだっていいのです。
大事なことは、声帯が間接的に短く分厚い状態で接触するので、ミックスボイスより力強い発声ができるという点です。
ではどうすれば声帯が間接的に短く分厚い状態を作れるのでしょうか?
喉頭(喉仏)を高く上げれば上げるほど、間接的に声帯は短縮するため、分厚いままでもある程度の高音域を発声することができます。
ボイトレを勉強している人は、「喉頭(喉仏)は上げるな!下げろ!」と聞いたことがあるかもしれません。
これはあくまで、無意識に喉頭(喉仏)があがってしまうのが良くないという話で、意識的に持ち上げるのは別です。
声帯が分厚いまま高音域を発声できるということは、音色も当然、力強いパワフルな歌声になります。
ミックスボイスの延長線上にあるベルティング(地声ミックス)
さてもう一つのベルティングの概念ですが、世間一般的にベルティングと呼ばれているのはコチラの方です。
「地声ミックス」、「裏声ミックス」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、この地声ミックスと呼ばれる声の別名がベルティングと呼ばれることが多いです。
要は力強いミックスボイスと、柔らかいミックスボイスをどちらもミックスボイスと呼ぶのはややこしいので、前者をベルティングと呼びましょうということです。
個人的には、ミックスボイスに全く違うベルティングという名称を後付けする方が、よっぽどややこしいと思っていますが…。
ミックスボイスは甲状披裂筋、俗にいう「声帯筋」を厚くしたり、薄くしたりすることで適切なバランスを保って発声する技術なのですが、このバランスを意図的に多少偏らせることが出来るわけです。
声を無理やり張り上げたり、裏返ったりしない範囲内で声帯筋をコントロールしながら、声帯を厚めに使った力強い発声が地声ミックス。
逆に声帯を薄めに使い、柔らかいトーンで発声するのが裏声ミックスです。
この地声側に寄ったバランスの声帯振動を、世間的にはベルティングと呼ぶことが多いのですね。
番外編‐シンガーズフォルマント‐
最後に番外編として、※「シンガーズフォルマント」という概念を紹介させてください。
このシンガーズフォルマントという周波数特性を上手く活用することが出来れば、声帯を分厚く使わなくても、強烈な鳴りのミックスボイスを生成することが可能です。
ですので、このシンガーズフォルマントという知識を持ち合わせていない人は、この発声状態も「地声ミックス=ベルティング」と、呼んでいる場合が見受けられます。
Saucy Dogなんかが正に、この鳴らし方をしています!
YouTubeで優里とSaucy Dogの石原さんが、カラオケの点数を競う企画の映像をご覧ください。
5:44~「君を忘れられんなぁ」の部分なんて、とてつもない鳴り方をしていますよね!
まとめ
ベルティングには2種類の概念が存在するため、ミックスボイスと同じ物なのか、それとも別物なのかが非常にややこしくなってしまっているように感じます。
エスティル(Estill)基準のベルティングは、軟骨や筋肉の働きにしっかりとした定義があるのに対し、世間一般的にベルティングと呼ばれている発声状態は、いわゆる「地声ミックス」と同義語だということが、お判りいただけたと思います。
声帯を分厚く使った発声は力強く格好いいので憧れる人も多いでしょうが、その状態でどれほどまで高音域を発声できるかは声帯のスペックによる個人差が大きいのもまた事実。
あくまで、多くのボイストレーナーが発声のベースに推奨するのは、「バランスのいい厚みの声帯振動」であるということは念頭に入れながら、ベルティングの練習に取り組むように心がけて頂きたいです!