小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
シアーミュージックについてググろう(Google検索しよう)とすると、「危ない」という関連ワードが出てきます。
この件に関しては沢山のブロガーが記事を書いており、既に「事実ではない」と結論付けられていますが…
実際に私自身がシアーミュージック鹿児島校の体験レッスンを受けた際に、ことボイトレに関しての指導方針には、Vocology(発声学)の観点から危険性が伴うと感じました。
- 世界的にオワコン化した腹式呼吸の指導
- ボイトレとボカトレを平行した指導
- プルチェスト発声を誘発・助長する指導
- 声量を求める日本式ボイトレの典型
そこで今回は、SVC公認ボーカルコーチである私エレ様が、実際にシアーミュージック鹿児島校の体験レッスンを受けた経験を基に、そのボイトレ教育に潜む危険性について解説していこうと思います。
世界ではオワコン化した腹式呼吸の指導
シアーミュージックの体験レッスンでは、レッスンの冒頭で「先ずは歌の基礎である腹式呼吸から練習していきましょう」と、腹式呼吸からスタートしました。
日本のボイトレ業界では未だにしばしば耳にする腹式呼吸ですが、世界的には半世紀以上も前にオワコン化しています。
今はもう無きブログ、「yasashi-voice.com/」さんにかつて投稿されていた記事の抜粋画像をご紹介します。
実はコンテンポラリー音楽のボイトレにおいて、未だに腹式呼吸を指導し続けているのは日本くらいのもの。
「腹式呼吸」による強い呼気を伴う歌唱法では、必然的にボリュームが上がり、繊細な表現が損なわれてしまったりしてしまいます。
クラシックと違ってマイクを使う音楽なのですから、その意味を理解する必要があります。
日本の常識は世界の非常識!腹式呼吸の癖が付くと治すのが大変なので、気を付けてください。
そもそも論ですが、現代のボカロ曲みたいに異常なテンポの曲を逐一、横隔膜を引き下げる腹式呼吸で対応するのは物理的に追いつきませんよ。
ヨガのインストラクターは腹式呼吸を徹底的に鍛えているのに、ロングトーンが伸びるなんて話も聞いたことありませんよね?
「ボイトレ」と「ボカトレ」を平行指導
シアーミュージックのボイトレ系コースですが、メインは「ボーカル&ボイストレーニング」となっています。
ボーカルトレーニングとボイストレーニングを同時並行で指導する方針なのですね。
「え?ボイトレとボカトレってどう違うの?」って思われた方の為に説明しますと…
ボイストレーニング(Voice Training)という言葉を直訳すると、「声の訓練」です。
どこにも「歌」を指し示す単語である「ボーカル(Vocal)」や「シング(Sing)」等は含まれていません。
これ海外では常識で、歌う訓練は「ボーカルトレーニング」や「スタイルセッション」「ボーカルディレクション」等と呼ばれ、全く別な歌専門の先生が担当することも珍しくありません。
日本的に分かりやすく言うと「カラオケ教室」です。
これに関しては、大阪梅田のボイストレーニングスクール・クリアボイスのジウコ先生が詳しく解説してくれています。
このように、曲を歌わせる指導はボイトレ教室では無くカラオケ教室ですので、騙されないように注意喚起してくださっています。
私がシアーミュージックで受けた体験レッスンでは、レッスンが始まる前に自分の好きな曲を選んで、レッスンの後半で実際にその曲を歌いました。
コース名の通り、レッスンの前半で腹式呼吸・発声練習等のボイトレを行い、後半では楽曲を歌いアドバイスを受けるという同時並行の指導方針です。
ですがこの指導方針には、実は大きな落とし穴があるのです。
同時進行でボカトレを指導する問題点
では何故、ボイストレーニングとボーカルトレーニングは明確に別けた指導が望ましいのでしょうか?
それはズバり、曲を表現する為の必要条件である「ミックスボイス」を真っ先に習得しないことには、並行して曲の練習に時間を裂いても、その努力が無駄になってしまう確率が高いからです。
地声から裏声の音域までトーンの解離がなく、一本に繋がった状態です。裏声もいわゆるファルセット(芯のない裏声)ではなく、ヘッドボイス(芯のある裏声)と繋がるため実用的です。声帯への負担も少ないので、声枯れや故障のリスクも軽減できます。
https://elegant-voice.com/method/
この問題点に関して、イチさんというアンザッツ・メソッドのボイストレーナーがX(旧Twitter)で指摘されていたポストを紹介いたします。
偏見と書いていますが、概ね的を得た意見です。
例えば、YOASOBIの『夜に駆ける』を歌いたいとして、転調したラスト大サビが高すぎて、裏声にしなければ歌えないとします。
地声では物理的に音が届かないわけですから、曲を100回歌おうが1000回歌おうが、届かないものは届かないのです。
『夜に駆ける』の最高音はF5(5番目のファ)ですから、この音が無理せずラクに発声できるミックスボイスを真っ先に手に入れる必要があるわけです。
特にYOASOBIの曲はテンポも速い為、甲状披裂筋を分厚く使った発声では軽快さを損ない、フレーズに音程が追いつきません。
ギター初心者がいきなり曲を弾けないように、ボイトレ初心者はいきなり曲が歌えない為、「ボイトレ」と「ボカトレ」を平行して指導する方針は理にかなっていないわけですね。
口を大きく開けさせる指導の問題点
これはシアーミュージックの体験レッスンにおける、前半の発声練習でのことです。
「もっと口を大きく開いてください」「もっと声量を出してください」という注文を受けました。
この指導の問題点ですが、実は口の開け方って※フォルマントに直結してくる為、それに伴い発声の難易度が大きく変わってくるのです。
「フォルマントは共鳴腔の容積によって作られるAcoustic Value(音響数値)である。と考えるのが最も自然でしょう」と前回の倍音編で書きました。
例えば、ペットボトルに水がある程度入った状態で息を吹き込むと高い音が作られます。
◆ 空間容積が狭い = 高い音をブーストする→高音域にフォルマントが出来る
※超重要なポイントです。ペットボトルに水をそこから減らした状態で息を吹き込むと低い音が作られます。
◆ 空間容積が広い = 低い音をブーストする→低音域にフォルマントが出来る
※超重要なポイントです。つまりは「広い空間は低い音をブーストする特性がある」そして「狭い空間は高い音をブーストする特性がある」と言う事が言えます。
https://www.voicetrainers.jp/349/
確かに口を大きく開ければ開けるほど、声量の観点から考えると有利です。
医学的観点から確立されたYUBAメソッドで有名な、三重大学名誉教授の弓場徹先生はこのようにお話しされているようです。
シアーの先生からは、「もっと口を開かないとア母音がオ母音に聞こえる」との指摘を受けましたが、理論的にはむしろそれが正解なのです。
純粋なア母音だと、※甲状披裂筋(TA)が分厚く働いてしまい、上記で解説したプルチェスト発声を助長してしまう可能性を伴うからです。
フォルマントの観点から、地声に成りやすい母音・裏声になりやすい母音等、母音の特性というのもがあるのです。
だから敢えて、ア母音にオ母音を混ぜた発音をするわけですね。
声量を求める価値観の矛盾
また声量に関しても、レッスンではとてつもないく大きな声を求められましたが、大前提としてそもそも近年は爆発的な声量で歌う歌手自体が激減しているという事実があります。
圧倒的な歌唱力知られるアニソン歌手のオーイシマサヨシが、ミックスボイスの声量について言及している貴重な映像があったのでご紹介します。
ミックスボイスでは物理的に「それほど声量が出せない」という旨の説明がなされています。
これは、大きな声量で歌うことにうより、甲状披裂筋を分厚く使うことを助長してしまい、ミックスボイスの声帯振動が保てなくなるからです。
録音ボイストレーニング教室の高岡先生という方が、声量に関する興味深い記事を書いていたので、こちらも合わせてご紹介します。
徳永英明のような一流シンガーの言葉ですから、説得力がありますよね!
そもそもコンテンポラリー音楽(ポップス)におけるミックスボイスという発声法は、マイクを使うことを前提に、小さな声で歌うように作られています。
セス・リッグスというボイストレーナーが、「Speech Level Singing(喋るぐらいリラックスした状態・声量で歌いましょう)」という概念の元、世界中にミックスボイスを広めたのです。
「声量が大きいことがステータス」という価値観の国民性である日本のボイストレーナーは、求める声量が世界基準を大きく逸脱して超えている傾向にある為、大変危険です。
まとめ
シアーミュージックは業界最大手のミュージックスクールですので、抜群の知名度にYouTubeも大変な人気があります。
ですが本当に大切なことは、シアーミュージックというネームバリューでは無く、そのレッスンで実際に結果が伴うかどうかではないでしょうか?
私も含め、今回ご紹介したジウコ先生やイチ先生をはじめとした一流のボイストレーナーの方々は、ボイトレとボカトレを明確に別けた指導方針を推奨しております。
また腹式呼吸をはじめ、エビデンスの観点から懐疑的な指導に無駄な時間やお金を消費するくらいなら、科学的な資格を持ったボイストレーナーに師事することを検討して頂きたいですね。