小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
「科学的ボイトレ」の世界では、既に常識と成りつつあるシンガーズフォルマントですが、まだまだ謎も多く、意外と解りやすく解説した記事が他に無かったので、私が執筆してみました。
シンガーズフォルマントは別名、歌声フォルマントとも呼ばれています。
厳密に言えば、シンガーズフォルマントは技術というより周波数なのですが、技術と捉えて差し支えないと思います。
余談ですが、世界的ボイトレ団体であるEstillにおいては、シンガーズフォルマントを鳴らした発声法を、「トゥワング」と呼んでいます。
このシンガーズフォルマントを強調して鳴らすことが出来れば、マイク乗りのいい通る声になる為、無理して声量を上げたり、声帯を分厚く使った発声をしなくても、それなりにパワフルに聴こえてくれます。
せっかく頑張ってミックスボイスを習得したのに、「ガツンと高音を鳴らすことが出来ない」という人は、このシンガーズフォルマントの鳴りが不足している為です。
これから解説する内容をしっかりと理解することで、アナタも憧れの力強いハイトーンを手に入れることが出来るかもしれませんよ!
大きな声より通る声‐シンガーズフォルマントの原理‐
シンガーズフォルマントは主に、高音域を鳴らすのに活用されます。
高音域を無理なく発声するには、声帯を薄くしていく必要があるのですが、声帯を薄くすればするほどエネルギーは減退していきます。
ミックスボイスで上手く、3kHz付近の周波数をブースト(増幅)して発声できると、強力な鳴りを生成できるので、パワフルな声で良く通るってことです。
下記が、シンガーズフォルマントが激鳴りする歌手の一例です。
- MY FIRST STORY(Hiro)
- Saucy Dog(石原 慎也)
- MISIA
- 女王蜂(アヴちゃん)
アヴちゃんの※ヘッドボイス、裏声なのにこれだけ鳴るのは、シンガーズフォルマントが強調されているからなんですね!
シンガーズフォルマントの原理としては、AES(披裂喉頭蓋筋)という器官が狭窄(きょうさ)、つまり狭まり細くなることにより、飲食物が誤って気管に入るのを防ぐ役割を持った喉頭蓋が沈むことで、声帯から口先までの(声道)大きな空間から、この喉頭蓋近辺(喉頭菅)の小さな空間が独立することで生み出されるわけです。
水が出ているホースを想像してみてください。ホースの口を指で摘むと、水の勢いが増しますよね!そんなイメージです。
シンガーズフォルマントが通る声になる理由
それでは何故、3kHz付近の周波数がブーストされることで、「よく通る声」になるのか?その理由を解説していきます。
高い周波数の方が耳に届きやすい
先ず大前提として、3kHz付近の周波数とは結構、高音域の周波数帯域になります。
低音より高音の方が振動数が大きい為、人間の耳には「高音の方がよく聴こえる」という特徴があります。
余談ですが、赤ちゃんが皆、個人差が無く高音で泣くことが出来るのは、お母さんによく聞こえるように、人間に備わったヘルプ機能と言えます。
バンドの楽器隊より上の周波数だから埋もれない
更にもう一つ、突っ込んだ話をすると、バンド等で歌っても抜ける声になる理由ですが、楽器の周波数帯域を考えれば理解できます。
ギターの周波数帯域
ギターもボーカルと同じ音域をカバーしている為、ギターの演奏はボーカルと被らない様に気を付けなければなりません。主な周波数帯域は80hz~13khzで鳴り方や演奏によって中心が変わります。400Hz〜800Hzに胴鳴り、1Khz〜2Khz辺りにコード感、2Khz〜5Khz歪みがあります。
https://tokyoguitarpress.com/frequencyband/
一般的な構成のバンド内で、最も高い周波数帯域を鳴らしているのはギターです。
ギターが1Khz〜2Khz辺りでコードを鳴らすので、ボーカルがそれより上の3kHz付近の周波数帯域を強調して歌うことができれば、バンドの演奏に埋もれず、抜けて聴こえるわけです。
3kHz付近の周波数は母音を邪魔しないので、歌詞が不明瞭になる等の悪影響もありません。
「シンガーズフォルマントの練習法は無い」なんて意見はもう古い
ではどうやったら、3kHz付近の周波数をブーストして発声できるのでしょうか?
「具体的な練習法は無い」という方がいらっしゃいますが、それは一昔前の情報です。
確かにシンガーズフォルマントは、まだまだ科学的に解明されていない部分も多いです。
ですが、「シンガーズフォルマントを鳴らしたり、鳴らさなかったりを自由にコントール出来る人」なら、鳴らしている時のフォームを自覚しているので、絶対に指導が出来る筈です。
私も実際、ViP公認インストラクターの小久保よしあき先生から、シンガーズフォルマントのレッスンを受けましたから!
小久保よしあき
Vocology In Practice(ViP)公認インストラクターViP創始者のDave Stroud氏、ViPマスターインストラクターのWendy Parr氏、SLSマスターインストラクターのGreg Enriquez氏、IVAマスターインストラクターのSpencer Welch氏に師事。
非常に高度な発声技術を武器に、良い発声から悪い発声の例まで、男女問わずハイクオリティのデモンストレーションでレッスンを行うことが可能。
https://kokubovoicetraining.com/profile/
そして私自身も今現在、ちゃんとシンガーズフォルマントをバリバリ鳴らすことが出来ます!
ってことは極端な話、韓国語の話し方を勉強すれば、鳴らし方のヒントが隠されているはずです。
※シンガーズフォルマントを強調する為には、大前提として※ミックスボイスが発声できる必要があります。
ミックスボイス自体がまだ発声できていない人は、下記添付の記事を参考に練習してみてください。
シンガーズフォルマントは舌(喉頭)の高さと軟口蓋が肝
シンガーズフォルマントを鳴らす為には、「舌の高さや喉頭(のど仏)の高さが重要」だということが分かっています。
私がシンガーズフォルマントを強調して歌った、『ドライフラワー』のショート動画を添付しておきます。
冒頭Bメロ「いつか」の「い」、サビ「声も顔も」の「か」は、思いっきりシンガーズフォルマントを強調して歌っています。
この時、舌が相当高い位置まで上がっており、それと連動して喉頭(のど仏)も少し上がっています。
ボイトレを勉強している人は、「喉頭は上げるな」と聞いたことがあるかもしれません。
ですが、それはあくまで「勝手に上がってしまうのがNG」で、「意識的に上げるのであればOK」という意味です。
シンガーズフォルマントのみならず、※ベルティングを発声する際にも実は、喉頭を高く持ち上げる必要があります。
それともう一つ、「軟口蓋が僅かに垂れ下がった状態がSFを生成する」という旨が記された、ヨハン・スンドベリ氏による論文が2018年末に発表されています。
ヨハン・スンドベリ プロフィール
1936年スウェーデン生。ウプサラ大学において音楽学で博士号を取得。長年、スェーデンのKTH(王立工科大学)音楽音響研究グループにおいて教授を務める(現在は名誉教授)。研究内容は歌声の研究をはじめ、音楽の演奏法、歌声の合成モデルに至るまで幅広い。スウェーデン音響学会の会長(1976‐1981)を務め、アメリカ音響学会フェロー。また、2003年アメリカ音響学会より音楽音響におけるシルバーメダルを授与される
https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%99%E3%83%AA_200000000161911/biography/
何を隠そう、このヨハン・スンドベリ氏こそが、「シンガーズフォルマントの音響特性に、最初に着目した」博士でもあります。
軟口蓋は、口蓋垂(いわゆる、喉ち〇こ)の手前側で、あくびをした時に、スースーする辺りです。
基本的には、無意識に調節される器官ですが、意識的に閉じたり開いたりすることも出来ます。
冒頭で少し触れた、世界的ボイトレ団体であるEstillのレッスンが正に、軟口蓋などのパーツに直接働きかけ、コントールを身に付けるようなメソッドだったりします。
シンガーズフォルマント(SF)の練習法
それでは実際に私が経験した、シンガーズフォルマント(以下SFと表記)を鳴らす為の練習法を紹介します。
ずばり、「ニャーオ」とか、「ミャーオ」といった猫の鳴き真似です!
ポイントは、「ニィヤァーオ」「ミィヤァーオ」と、ゆっくり母音を強調して発音することです。
「イ」というのは、舌を高くした上で、更に前に押し出して発音する母音です。
これを利用して、SFを生成しやすい状態を作り、「ア」の低舌母音でSFをブーストさせ、「オ」の後舌母音にまでSFを残してあげるといった訓練です。
SFは、舌の先ではなく、奥側を高く持ち上げることで生み出せる為、純粋な「イ」母音のままでは前舌過ぎて、SFをブースト出来ないのです。
これも超重要なポイントで、私自身がSFを鳴らすことが出来るようになって解ったのですが、「音の高さと舌(並びに喉頭)の高さは比例」します。
つまり、「音が高くなるに連れて、同時に舌と喉頭の高さも上げていく必要がある」ということです。
小久保先生が、ヘビメタの発声でシンガーズフォルマントを鳴らしている状態の画像です。
舌の高さに注目してください、舌の奥がめちゃくちゃ高いことが確認できるかと思います。
一見、ふざけているようにも見えますが(笑)、ヘビメタのようなハイトーンの音域を鳴らすには、これくらい舌を高く上げる必要があるのです。
因みになぜ、「nの子音」を使うのかと言うと、軟口蓋を下げる発音だからです。
注意点としては、軟口蓋を下げ過ぎないことです。
アンチフォルマントといって、軟口蓋がしっかりと垂れ下がってしまうと、逆に声がこもってしまいます。
軟口蓋は下げるのではなく、僅かに下げるという点が重要なのです。
つまり、nの子音を強調するのではなく、あくまで強調すべきは母音ということです。
発情期の猫みたいなイメージで練習してみてください(笑)。きっと次第に通る歌声になってくる筈です!
まとめ
シンガーズフォルマントは、鳴る声・通る声の正体です。
3kHz付近の周波数をブースト(増幅)して発声することで、声が良く通る・鳴るようになります。
「シンガーズフォルマントを強調する為の具体的な練習法は無い」というのは、過去の話です。
ここ近年は高舌・前舌等の、舌の位置をコントロールする練習をすることで、シンガーズフォルマントを強調することが出来るようになることが分かってきました。
ミックスボイスを習得した方は是非、次のステップとしてシンガーズフォルマントの練習をしてみてください。