小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
全ての歌手がミックスボイスで歌っているわけでは無い
ミックスボイス推奨派のボイストレーナーである私ですが、決してすべてのシンガーがミックスボイスで歌っているわけでは無いことも重々承知しております。
中には当然、ほぼ地声のみで歌っているプロ歌手だって存在します。
だからと言って「ミックスボイスができない」のかどうかは分かりませんが、少なくとも「ミックスボイスで歌ってはいない」「ミックスボイスを使わない歌手」という事実はあるわけです。
※ハリウッド式メソッドの生みの親である、ボイストレーナーのセス・リッグス氏は、日本人歌手の印象についてこのように語っていたそうです。
「日本人は何でみんなあんなに叫ぶのかね?」
https://truevoiceoffice.com/hightonevoice-hint1/
ハリウッド式メソッド
セス・リッグスという、マイケルジャクソンやスティービーワンダー、マドンナといった数々のスーパースター達を育成した実績を持つ全米ナンバーワンのボイストレーナーが考案したボイトレの手法。独自の発音(母音・子音)と音階(スケール)を組み合わせた発声練習により、バランスのいいミックスボイスの状態へと導いていくことを主たる目的としている。近年この手法には、れっきとした科学的根拠があることが解明されてきたことにより、より一層注目されている。
https://elegant-voice.com/mixed-voice-2/
ミックスボイス以外の歌手をボイスタイプ別に紹介
そんなハリウッド式メソッドですが、ミックスボイス以外の発声状態を3つ、ボイスタイプとして定義しているのが特徴の一つと言えます。
そこでこの記事では、「ミックスボイスで歌っていない歌手」を、ハリウッド式ボイトレにおけるボイスタイプ別に紹介させて頂きます。
プルチェストで歌っている歌手(高橋優)
地声を無理やり張り上げて発声している、とても危険な状態です。音程はフラット(下がる)傾向にあり、声帯にかかる負担も大きく、いかんせん歌っていて苦しい、ポリープや声帯結節といった故障のリスクも高まります。
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プルチェストとは上記のような状態ですので、要するに「THE 地声」で歌っている歌手ということになります。
昭和の歌手に多いですが、折角ですので平成・令和の歌手から紹介させて頂くと…その代表格は高橋優さんです。
低音域からスクイーズ(楽に出せる音域から叫んでいるような状態)で、ガッツリ地声を張っています。
この状態で歌っていると必然的に、高音域にもそのまま突入することになる為、地声を張り上げて歌っています。
高橋優は路上ライブ出身で、マイクを使わずに歌っていた為、そういった歌手はプルチェストが多いです。
フリップで歌っている歌手(倖田來未)
地声から裏声にポッキリと折れてしまう状態です。安全性の面では裏声に力を逃がせている分、プルチェストと比べると幾分マシと言えますが、プルでも最終的には地声の限界に到達することでフリップします。
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フリップとは上記のような状態ですので、地声と裏声が繋がっていない為、地裏を切り替えて歌う歌手となります。
フリップの代表格と言えば、意外に思われる方が多いかもしれませんが…倖田來未さんです。
サビの高音域を、完全な裏声(ヘッドボイスではなく息漏れのあるファルセット)で歌っているのが確認できます。
ボイストレーナーの耳で聴けば解るのですが、これは敢えて表現の為に裏声を使っているわけではなく、裏声にせざるを得ないのでしている状態です。
倖田來未は実際、CHAGE and ASKAのASKAと対談した際に、「ミックスボイスなんて言葉自体を、最近知りました」という旨の発言をされていました。
ライトチェストで歌っている歌手(手嶌葵)
地声をほとんど使えていない、低音域でも裏声の筋肉が優勢に働いた声がスカスカな状態です。音程は上ずる傾向にあり、日常生活でも極端に声が小さく聞き返されることが多い人や、声楽・合唱でのソプラノ経験者にも多々見受けられます。
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ライトチェストとは上記のような状態ですので、低音域ではエネルギーが無いが、高音域では声に張りが出るタイプの歌手です。
この状態の歌手の代表格と言えば、皆さんも同じ方を思い浮かべたかもしれません…手嶌葵さんですね。
低音域は地声感が薄く、もうほとんど「息だけ」といった感じですよね。
サビのトップノートでは、ヘッドボイス(息漏れの無い、声門が閉じた状態での裏声)で声に張りが出て、エネルギーが入っていることが確認できます。
高音でエネルギーが増すのも、ライトチェストの特徴です。
番外編
ハリウッド式メソッドにおけるボイスタイプ別に、ミックスボイス以外の歌手を紹介させて頂きましたが、番外編として更にもう少し細かく分類して、追加で紹介させて頂こうと思います。
ベルティング&がなり声で歌っている歌手(優里)
間接的に声帯の長さを短縮することで、高音域でも声帯が分厚い状態での振動を可能にすることで、力強い高音を発声する技術です。
日本人の歌手は、本当にこのベルティング傾向の歌手が多いという特徴があります。ミックスボイスよりもパワフルな発声が、冒頭でも紹介したこのベルティングです。
この状態で歌っている歌手はたくさんいるのですが、「令和のベルト王」と言えばこの人…優里さんです。
ベルトと言うのは、ベルティングの略称です。
『ベテルギウス』の大サビ、「僕ら 肩並べ 手取り合って」部分のC5(5番目のド)ベルトは圧巻です。
男性でしたら正直、このC5という高さはミックスボイスでも、「しんどい人はしんどい」です。
それをこの声帯の分厚さで出せるのは、スーパーハイスペック声帯ですね…。
更にもう一つ、優里と言えば「がなり声」。
この「がなり声」ですが、仮声帯(かせいたい)と呼ばれる、声帯のすぐ上に付随するパーツが接触することで発動します。
声帯に「強い呼気」を吹きかけることで、その呼気に耐えようとサポートとして仮声帯が発動し、ノイズが乗る仕組みです。
因みに優里本人はミックスボイスについて、「(朝倉)未来君の声聴いてると…ミックスボイス」
(優里自身はミックスボイスで歌っていないので、)「ミックスボイス習いたい人、(格闘家の朝倉未来に)聞いた方がいいよ」と、YouTubeで発言しています。
因みに朝倉未来の発声ですが、ミックスに入っているものの、かなり声帯が厚く接触していますので、ベルト寄りです。
ヘビーチェストで歌っている歌手(ジェロ)
低音域だからこそ声帯が必要以上に分厚く接触し過ぎている状態をELEGANT VOICEではヘビーチェストと定義し、5ボイスタイプで捉えています。プルと併発しやすいですが、それほど極端に叫んだりはしていなくても、そもそもの声帯が分厚い人は声が重くなりがちです。
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ヘビーチェストとは上記のような状態ですので、「高音域は使わない」と、音域を完全に割り切って歌っている歌手ということになります。
ヘビーチェストは、演歌歌手やジャズシンガーに多いボイスタイプなのですが、今回紹介させて頂くのは…黒人演歌歌手のジェロさんです。
ダンディーな低音ボイスが、魅力的ですよね。
しっかりと、声帯が分厚い状態で振動していることが聴き取れます。
これは「高音域を捨てて、中低音域のみで勝負する」と、完全に割り切った演歌ならではの歌唱スタイルです。
ハイラリンクスで歌っている歌手(浜崎あゆみ)
ハイラリンクス…ボイトレを勉強している人なら、よく耳にするワードだと思います。
喉頭(のど仏)が高いことにより倍音成分が抜けて、地声感が薄い、ケロケロボイスのような声で歌っている状態です。
誤解しないように補足すると、必ずしも「ハイラリ=地声感が抜ける」ではないです。
「ベルティング」もハイラリで発声しますし、※シンガーズフォルマントと呼ばれる、ミックスボイスを鳴らす発声も実はハイラリです。
こちらで紹介するハイラリの歌手は、地声感が抜けた状態のハイラリということで、その歌手とはズバリ…浜崎あゆみさんです。
色々な映像を確認しましたが、特にこの『Boys & Girls』は、「ハイラリ増し増し」ですね(笑)。
盛り上げる為に敢えて自ら、「浜崎あゆみを誇張したファンサービス」といった感じでしょうか。バラードを熱唱している時の声と聴き比べると、トーンの違いが一目瞭然ですよね。
ローラリンクスで歌っている歌手(中島美嘉)
ローラリンクスというのは、ハイラリンクスの逆…つまり喉頭(のど仏)が低い状態です。
この状態で歌っている歌手の代表格と言えばこの人…中島美嘉さんです。
中島美嘉の魅力は「低音の深み」ですが、この深みこそが、ローラリにより生み出されています。
喉頭(のど仏)が下がることで、咽頭側の共鳴腔が広がる為です。
恐らく、音程と喉頭が連動する癖があり、音程が下がることで喉頭も下がっていることが予想できます。
日本人歌手に純粋なミックスボイスが少ない理由
冒頭で紹介したセス・リッグス氏の言葉を思い出してください。
「日本人は何でみんなあんなに叫ぶのかね?」
https://truevoiceoffice.com/hightonevoice-hint1/
これはやはり、日本人の国民性にあると考えています。
日本人の価値観として、「歌は心」とか、「感情が~」ってよく聞くじゃないですか。
May J.が一時期ネット上で「歌に心が無い」なんて言われ、日本国民から袋叩きにあっていたことは、まだ記憶に新しいですよね。
「上手い歌より個性」を評価する日本人の価値観の中で売れるには、必然的に綺麗なミックスボイスを避ける文化が生まれたのかもしれません。
新しい文化を取り入れることに嫌悪感を抱く国民性も相まって、ミックスボイスの普及が遅れたようにも思えます。
個人的には、May J.のような「歌にひた向きに取り組み、努力する人間が報われる世界」になって欲しいと切に願います。
『レット・イット・ゴー』を生で歌い続けたMay J.が叩かれ、一度も歌わなかった松たか子が崇められる世論には、少し違和感を覚えました。
まとめ
この記事では、ミックスボイス以外の発声状態の歌手を3人と、番外編として更に、4つの発声状態の歌手を紹介させて頂きました。
ミックスボイスは、間違いなく優秀な発声法(声帯振動)であり、これからも私自身はミックスボイスを推奨し続けていきます。
ですが、ミックスボイスが出来なくても、素敵な歌で日本中に感動をもたらしてくれている歌手が、たくさん存在することもまた事実です。
歌手になりたいという夢を持っている人は、ミックスボイスが出来ないからといって、夢を諦める必要は全く無いということです。