小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
ビブラートはあくまでも音程変化
ビブラートは科学的にハッキリとは解明されておらず、諸説あるのですが…
科学的に証明されていることとしては、『あぁあぁあぁあぁ』のように大きい「あ」と小さい「あ」を交互に繰り返すようなボリュームの大小によるものではなく、音程の上下動であるということです。
因みに私は基本的に、※輪状甲状筋(通称CT)という筋肉による、音程の上下運動だと考えています。
輪状甲状筋は通称CTと呼ばれ、高音を発声する際に声帯筋を引っ張る役割があります。高音以外でも音程を司る筋肉であり、この筋肉が柔軟に作用することが出来て初めて、自由に音程を変えられます。
ビブラートは高速で音程を上下動する技術だということは科学的にも立証されているので、CTがいかに高速で上下に動けるかが肝だと私は考えているわけです。
因みに、※「甲状披裂筋(通称TA)という筋肉が、ビブラートの掛かり始めで作用する」という論文があるのですが、これはあくまでも私の勝手な解釈として、掛かり始めでスイッチ的な働きがあるのでは?と考えています。
TAのビブラート・スイッチ説は、あくまでも私の勝手な解釈に過ぎないので、エビデンスはありません(笑)。
音程変化以外のビブラートもある?
ビブラートには、「ピッチビブラート(喉ビブラート)以外にも種類がある」というボイストレーナーをよく見かけます。
- ボリュームビブラート(横隔膜ビブラート)
- 共鳴ビブラート(顎ビブラート)
ビブラートは「ピッチビブラート(喉ビブラート)のみ」と考えて差し支えないと思うのですが、他の2点についても考えてみましょう。
ボリュームビブラート(横隔膜ビブラート)
「お腹(横隔膜)で掛けるビブラートこそが本物のビブラート」という主張をよく耳にします。
これは恐らく、音量の大小によるボリュームビブラートを指していると思われます。
確かに横隔膜は意識的に動かすことが可能な随意筋とされてはいますが、「横隔膜を動かそう」と意識して、横隔膜が動いている実感がありますか?
いわゆるドッグブレスと呼ばれる呼吸、犬のように高速で「ハッハッハッ」と息を吐けば、きっと横隔膜も動いているでしょうが…。
日本におけるハリウッド式ボイトレのパイオニアである桜田ヒロキ氏は、動画で下記のように解説しています。
また、ショート動画『横隔膜のビブラート間違いです』では、下記のようにおっしゃっていました。
実際に、高音域でお腹を自身の手で押して呼気圧を上げてみても…「半音も上がらない」ことが解ります。
単純に、フルートなどの呼気圧・音量によりビブラートを掛ける楽器とは違い、生身の人間では、フルートと同じようにはいかないと思いませんか?
歌いながら曲中で、「ハッハッハッ」というドッグブレスの要領で、声を「あぁあぁあぁ」と大小繰り返しながらピッチを保つ…余り現実的では無い気がします。
よって、嘘と言っても差し支え無いのではないでしょうか?
わざわざ、これをビブラートの一種としてカウントすることに、私は違和感を覚えます。
共鳴ビブラート(顎ビブラート)
口を開いたり閉じたりすることで、ビブラートのような効果を得るというモノが、顎ビブラートです。
確かこれ、強制的に音程を変えることは出来ます。
つまりこの現象を利用して、口を開けたり閉じたりを繰り返すことでビブラートのような効果を得ることは、理論上は可能ということです。
余りにも実践的では無さすぎるので、これもビブラートとしてカウントするのはいかがなものか?と思います。
たまに歌手でもビブラートを掛ける際に、僅かに顎も上下している人を見かけますが、これは音程の上下動と連動して、間接的に顎も動いているに過ぎません。
決して顎でビブラートを掛けに行っているわけでは無いので、注意して下さ。
ビブラートに酷似した技術のトリルって?
実はビブラートにそっくりの技術で、トリルというモノがあります。
これをビブラートだと勘違いしている人も多いと思うので、解説しておきます。
トリルとは、ビブラート同様に、音程の上下させる技術ではあるのですが、ビブラートのようなレガート(滑らか)な波ではなく、一つ一つの音の粒がはっきりとしたテクニックです。
広瀬香美の『promise』という曲のサビ(0:33~)で使われているのが正に、トリルです。
「きっとお↓お↑お↓お↑お↓お↑お↓お↑お↓」と、はっきりとした音の上下動で歌われているのが確認できますよね!
聴いてお判りの通り、かなりビブラートに酷似していますが、別なテクニックですので、注意してください。
ビブラートの掛かり具合には個人差がある
例えば生まれつき体の硬い人もいれば、軟らかい人もいるように、CTの運動能力にも個人差がある為、ビブラートが掛かりやすい人と掛かりにくい人が存在するというのが私の持論です。
日本ボイストレーナー連盟さんも下記のように、同じような見解を示されています。
ビブラートは、3つのパターンに分ける事ができます。
①もともと掛けられる人
②もともと掛けるつもりがない人
③練習して掛けられる様になりたい人今回のご質問者様は、恐らく③のケースだと思われます。
ビブラートは体質的な部分が大きく、①の人以外は難しい、と言えます。
https://www.voice-trainer.or.jp/knowhow/vibratos/1307
ではどうすれば、掛かりづらいタイプの人がビブラートを掛けられるようになるのでしょうか?
最も重要なのはミックスボイス
ビブラートが掛かり辛いタイプの人が、ビブラートを習得するために最も重要なことが、※ミックスボイスです。
ミックスボイスを習得すれば、CTが担う仕事量が減るのでビブラートを掛けられる可能性は上がります。
ミックスボイスは声帯筋の厚みをコントロールする技術ですので、声帯筋を薄く使うことにより、CTは少ない力で動くことが出来るというわけです。
ミックスボイスの練習法については下記の記事で詳しく取り扱っています。
ビブラートの練習法
『ドシ↓ド↑シ↓ド↑シ↓ド↑シ↓ド↑』といった感じで、半音ずつ交互に発声します。
これを最初はゆっくりなテンポからスタートし、次第に早くしていくという至ってシンプルなものです。
これは遥か昔から言われていることで、桜田ヒロキ氏も下記のようにおっしゃっていました。
そして目指すはテンポ120です!
テンポ120の3連符が出来るようになったら、その時みなさんは理想的なスピード、「1秒間に6回の振幅」のビブラートが能力的に出来る事になります。
※一般的に1秒間に6回の振幅のビブラートが聞き手にとって最も心地が良いと言われています。
http://vocallesson.seesaa.net/category/4655621-1.html
つまり、1秒間に『シ↓ド↑シ↓ド↑シ↓ド↑(これで6回)』と出来れば、理想的なスピードのビブラートが完成するというわけです。
ちなみに何故、「1秒間に6回の振幅」が理想と言われているかと申しますと、「統計的にそのような結果が報告された」という記事を読んだことがあります。
その記事のソースが不明になってしまって恐縮なのですが、実際に様々なスピードのビブラートを数百人に聴いてもらったところ、1秒間に6回くらいが最も美しいと答えた人が多かったそうです。
「1秒間に6回の振幅」というのは、大体の目安ですからね。
「1秒間に7回では速すぎる」とか、「1秒間に5回では遅すぎる」ということではありません。
実際には当然、曲のテンポによって微調整する必要があります。
まとめ
ビブラートの練習方法はいたってシンプルで、『ドシ↓ド↑シ↓ド↑シ↓ド↑シ↓ド↑』のように半音ずつ交互に発声を繰り返すだけです。
『シ↓ド↑シ↓ド↑シ↓ド↑』と、1秒間に6回揺らせるようになればビブラートマスターと言って良いでしょう。
ですがビブラートは、掛かりやすい人と掛かりにくい人がいるのもまた事実です。
ミックスボイスを習得すればビブラートが掛けられる可能性が高まるので、先ずはミックスボイスの習得を最優先して欲しいです。