小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
歌で「自分らしさ」や、自身の声の特徴を最大限に引き出す為には、キー設定がとても重要です。
世の中には、「原曲キーで歌うことに意味がある」と考えている、原キー至上主義の方も少なくありませんが…。
そこでこの記事では、実は奥が深いキー設定について詳しく解説していきます。
歌手は複数のキーからベストを選択
例えば優里クラスのプロ歌手ならある程度、どのキーでも歌えます。
優里がキーをどこまで上げて歌えるか挑戦していますが、結構な高さまで上げても歌えることがわかります。
ということは、歌手にとっての原曲キーは複数歌える選択肢の中から決定したキーですので、色々な角度から計算されていたりします。
ミックスボイスがキー設定の別れ目
声帯のスペックは一人ひとり違いますので、原曲キーで歌っていて違和感を覚えたら、変なプライドを持たず素直にキーを変更すべきです。
プロ歌手は尋常じゃないくらい声帯のスペックが高かったり、※ミックスボイスや※ベルティングといった発声スキルを駆使した上でのキー設定だということを理解しましょう。
ミックスボイスで歌える人と、そうでない人の場合で詳しく解説していきます。
ミックスボイスで歌えない(地声・裏声)人のキー設定
ミックスボイスが出来ない人のキー設定は、いたってシンプルで簡単です。
地声と裏声がハッキりと分かれている人は、曲の一番おいしい部分(ドライフラワーなら「声も顔も〜」の「か(A4)」)を裏返さなくても、わりと楽に出せるキーに設定しましょう。
言わずもがなって感じですみません…。
優里本人もそうですが、そのあとの「嫌いじゃないの」は裏声を使っています。
つまり「声も顔も〜」の「か(A4)」にピークを持ってくることを優先し、仮にそれ以上高い音はすべて裏声に逃げると割り切ったとしても、ちゃんと歌は成立するということです。
ただしその場合、問題になってくるのは高音ではなく低音域です。
歌える曲を増やしたければ、やはりミックスボイスの習得に励む必要があると思います。
ミックスボイスで歌える人のキー設定
キー設定が難しいのは、実はミックスボイスで歌える人の場合です。
プロ歌手と同様に、多少キーを上下しても歌えてしまうので、キーの選択肢が多いからです。
声の倍音を基準にキー選択
ミックスボイスで歌える場合は、声の倍音が極端に減退しない範囲で、低音から高音まで一番バランスの良いトーングラデーションになるように、キーを設定してみましょう!
倍音を説明するのはややこしいので詳細は割愛しますが、平たく言うと声における倍音とは、「地声に聞こえる成分」のことです。
- 倍音が多い=地声的
- 倍音が少ない=裏声的
ミックスボイスで低音から高音まで綺麗に繋がっていても、※ハリウッド式メソッドでいう所の「ヘッドボイス」以上の音域に到達すると、地声に聞こえる成分は次第に減退していきます。
ハリウッド式メソッド
セス・リッグスという、マイケルジャクソンやスティービーワンダー、マドンナといった数々のスーパースター達を育成した実績を持つ全米ナンバーワンのボイストレーナーが考案したボイトレの手法。独自の発音(母音・子音)と音階(スケール)を組み合わせた発声練習により、バランスのいいミックスボイスの状態へと導いていくことを主たる目的としている。近年この手法には、れっきとした科学的根拠があることが解明されてきたことにより、より一層注目されている。
https://elegant-voice.com/2023/07/27/mixed-voice-2/
鳴らしやすさ(シンガーズフォルマント)を基準にキー選択
シンガーズフォルマントって聞いたことありますか?
少し難しい話ですが、シンガーズフォルマントと呼ばれるハイトーンを効率よく鳴らす手法があるのです。
これが鳴らせると、倍音を基準にキー選択をするよりも高いキーを選択しているにも関わらず、よりパワフルに聴かせることが出来るのです。
ですから、シンガーズフォルマントを強調して鳴らせる人は、この「高音を鳴らしやすい」という基準でキーを選択するのも一つの手段です。
ミックスボイスの人はBRIDGE表と照らし合わせてみよう
添付の表がハリウッド式メソッドで採用されている「ブリッジ」という、音域に関する非常に重要な概念です。
因みにこの表から、女性には「ミドルボイス」というレジスター(声区)が存在するのに、男性にはそれが存在しないことが分かりますね。
男性に「ミドルボイス」が存在しない理由ですが、男性はチェストボイスの音域がとても広いので、男性にとっての真ん中の音域とは、チェストボイス内を指すことになってしまい、真ん中と定義するには低すぎて違和感を覚えるからです。
「1st Bridge」「2nd Bridge」と表記されている部分が、いわゆるミックスボイスに該当します。
ミックスボイスで歌える人は、この表と実際に自分の声とを照らし合わせながらキーを決めてみると、分かりやすいかもしれません。
個人差はありますが、一般的に「2nd Bridge」ぐらいまでで収まるようにキーを調整してあげると、上手くいきやすいと思います。
キー設定によって歌唱スタイルを築くことも出来る
冒頭でキー設定は奥が深いとお伝えしました。
それは、敢えてベストなキーを外すという考え方もあるからです。
敢えて高めのキー設定
例えばEXILEなどのLDH系だと、敢えて少し高めのキーに設定することで裏声を多用し、男のセクシーさを印象付けています。
敢えて低めのキー設定
逆にStory等のヒットで知られるAIなどは、キーを低めに設定することでガッツリとベルト(ベルティング)した発声でパワフルに曲を表現しています。
異性の曲を歌う場合のキー設定
異性の曲を歌う場合に、キー設定に悩む人も多いと思います。
男性が女性の曲を歌う場合は♭(-)5、女性が男性の曲を歌う場合は#(+)5が基本です。
余談ですが、男性が女性の曲を原曲キーで歌う為にはミックスボイスが絶対条件になります。
但し、ミックスボイスで歌えたとしても必ず歌えるわけではなく、あくまでそのキーで歌えるポテンシャルが声帯に備わっていればの話です。
最近はMrs. GREEN APPLEなどの、男性が女性曲を原曲キーで歌えるハイトーンのシンガーが多いですが、彼らはプロの中でも特殊だから売れているということを忘れてはいけません。
まとめ
キー設定は非常に奥が深く、高ければ下げて、低ければ上げるという単純なものではないことがお判りいただけたと思います。
キー設定の基準に関しましては、ミックスボイスが出来ない場合は選択肢が少ないのでそれほど迷うこともないのですが、難しいのはミックスボイスで歌える人です。
ミックスボイスで歌える人は、地声に聞こえる成分、倍音を意識してキーを設定してみてください。
また敢えて高めのキーに設定したり、逆に低めのキーに設定したりすることで、自身の歌唱スタイルを築くことも出来ますので、挑戦してみてくださいね!