小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
タイトルにもある通り、歌の表現力・抑揚に関して、「Aメロは抑えて、Bメロから盛り上げ、サビで爆発」という概念を本当によく耳にしますよね。
歌における、曲の構成を意識した表現のビルドアップですが、これって本当に正しいのかを考えたことはありますか?
私自身、かつて鹿児島でボイトレを受けていた頃に、ボイストレーナーから再三言われてきた言葉です。
当時はかなり未熟だったので、※ミックスボイスなんて発声できませんでしたから、毎度のように「抑揚がない」と口酸っぱく注意されたものです。
このミックスボイスと抑揚に因果関係があることは、既に記事にしているので、興味がある方はご一読ください。
結論を言います、「Aメロは抑えて、Bメロから盛り上げ、サビで爆発」という表現のビルドは、決して間違いではないですが、イメージが先行しすぎているというのが私の見解です。
イメージが先行している
曲のブロックにおいて、一般的に最も耳に残るのがサビであることは間違いありません。
そもそも楽曲というのは大概、Aメロ→Bメロ→サビと進むにつれ、徐々に音域が上がって行き、盛り上がるように作られています。
ということは、「Aメロは抑えて、Bメロから盛り上げ、サビで爆発」するように歌えという意見は一見、理にかなっているように思えます。
ですが逆に言えば、わざわざそれを強調して歌わなくても、素直に歌えばそもそも自然と盛り上がるように作られているのが一般的な楽曲だとも言えます。
多くの楽曲が、Aメロからサビにかけて徐々に盛り上がるように作られているため、ボーカルもそれに則って、徐々に盛り上がるように歌わなければいけないというイメージに囚われすぎてはいませんか?というのが私の持論です。
よほど棒読みのように歌わない限り、自然と抑揚が付くように、曲にはちゃんとメロディーの起伏が盛り込まれています。
構成を意識しすぎる必要は無い
プロの歌手に限らず、SNSなどで活躍されている歌が上手い歌い手さんたちにも共通して言えることですが、基本的には「Aメロは抑えて、Bメロから盛り上げ、サビで爆発」という構成に則て歌ってはいます。
ですがよくよく分析して聴いてみると、皆さんがイメージしているほど極端ではないことに気が付くと思います。
冒頭でも触れましたが、ボイストレーナーですらイメージに流されて、「Aメロは抑えて、Bメロから盛り上げ、サビで爆発」というビルドに固執した指示をしがちです。
※ハリウッド式メッソドでいうところの※プルチェストと呼ばれる状態に陥り、ミックスボイスから大きく遠のいてしまいます。
ハリウッド式メソッド
セス・リッグスという、マイケルジャクソンやスティービーワンダー、マドンナといった数々のスーパースター達を育成した実績を持つ全米ナンバーワンのボイストレーナーが考案したボイトレの手法。独自の発音(母音・子音)と音階(スケール)を組み合わせた発声練習により、バランスのいいミックスボイスの状態へと導いていくことを主たる目的としている。近年この手法には、れっきとした科学的根拠があることが解明されてきたことにより、より一層注目されている。
https://elegant-voice.com/2023/07/27/mixed-voice-2/
地声を無理やり張り上げて発声している、とても危険な状態です。音程はフラット(下がる)傾向にあり、声帯にかかる負担も大きく、いかんせん歌っていて苦しい、ポリープや声帯結節といった故障のリスクも高まります。
https://elegant-voice.com/method/
曲を表現することを意識しすぎるあまり、発声を崩してしまっては元も子もありません。
こちらも冒頭で触れましたが、ミックスボイスと表現力・抑揚とは密接な関係があるからです。
自然な抑揚で表現している歌手
曲の構成をそれほど極端には意識せず、自然な抑揚で表現している歌手を具体的に2人ご紹介させて頂きます。
アニメ『宇宙兄弟』のエンディングを歌われていた、カサリンチュの村山さんと、元E-girlsの鷲尾さんです。
曲の構成を意識してというよりは、メロディーの起伏を生かして自然に抑揚をつけている印象がありませんか?
女性らしい粉雪と言いますか、粉雪という言葉が持つ本来の儚さが表現されているように私は感じました。
例外的に極端な構成を意識して歌われいる楽曲
例えば映画『タイタニック』の主題歌、セリーヌ・ディオンの『My Heart Will Go On』のような曲なら話は別です。
映画『ボディガード』の主題歌、ホイットニー・ヒューストンの『I Will Always Love You』などもそうですが、これらの曲はサビですら、1コーラス目は相当抑えて歌われています。
ラストの大サビを最大限に盛り上げるために、サビですら1コーラス目は大サビの為のフリに使うという表現ですね。
J-POPでは珍しい表現法ですが、洋楽には多いです。
ただし二人ともに共通して言えることですが、彼女たちはミックスボイスを発声の基盤にしながら、大サビでは※ベルティングと呼ばれる発声を使用しており、確かなスキルと天性の才能をもってして成せる表現とも言えます。
まとめ
「Aメロは抑えて、Bメロから盛り上げ、サビで爆発」という概念は、まるで一般常識かのように語られていますが、実際に歌が上手いシンガーたちを分析してみると、必ずしもそうではないことがお判り頂けたのではないでしょうか?
確かに一見、理にはかなっているように思うのですが、そもそも楽曲というのはAメロからサビに向けて徐々に盛り上がるように作られています。
つまり、わざわざそこを強調して歌わなくても、自然に歌うだけで自ずと盛り上がるように出来ている場合がほとんどだということです。
表現力・抑揚を上げるために最も重要なのは、発声の強化だということをくれぐれも念頭に置いておいてくださいね。