小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
声量を求めると発声のバランスを崩す
Superflyのような、爆発的な声量に憧れる人は少なくないと思います。
歌における声量がアドバンテージになることは間違いないですし、勿論あるに越したことはありません。
ですが声量って実は、「声量が無い」と悩んでいる、そう指摘されるという人が、想像している3分の1以下で十分だったりもします。
3分の1という数字は、あくまでなんとなくのニュアンスです。
それくらい、さして重要では無いという意味です。
パワフルなイメージのあるゴスペルシンガーだろうが、バンドのボーカルだろうがです。
その基本ができた上で、※ベルティングのようなパンチの効いた発声を使用するのであれば、すべきなのです。
ですがミックスボイスで歌うためには、声量はむしろ抑える必要がある場合がほとんどです。
「声量おばけ」なんて表現で、声量をモテはやす傾向がありますが、わざわざ追い求めるのは結構リスキーなのです。
全米No.1ボイストレーナーの金言
マイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダー等を育成したことで知られる、ボイストレーナーのセス・リッグス氏は、日本の歌手達を見てこのような発言をしたそうです。
「日本人は何でみんなあんなに叫ぶのかね?」
https://truevoiceoffice.com/hightonevoice-hint1/
セス・リッグス(英: Seth Riggs、1930年9月19日 – )は、アメリカ合衆国のボイストレーナー。ロサンゼルスを本拠地に、ボイストレーニングを行っている。
ベルカント唱法を基に発声法「Speech Level Singing」(スピーチ・レベル・シンギング、SLS)を考案し、マイケル・ジャクソン等トップスターのボイストレーナーとしてレコーディングやツアーのサポートなど過密なスケジュールをこなしている。SLS指導者の育成もしており、ボイストレーナーとしての様々な厳しいテストをパスした者にそのライセンスを与えている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%B9
因みに、上記Wikipediaの説明では、SLSを「発声法」と解釈していますが、厳密には発声法ではなく団体名ですので、Wikiが間違いです。
このSLSを意訳すると「喋るくらいのリラックスした声量で歌いましょう」となります。
しかもこの喋るくらいの声量とは、「最も声を張るサビでせいぜいそれくらい」、という定義です。
ということは、Aメロなんてマイクが無ければ聞き返されるほどの小声となるのが通常なのです。
声量を抑えた方が、ビブラートも掛かりやすいです。
バンドのボーカルは特に要注意(※King Gnuのウィスパーボイスから学べ)
私の勝手な印象ですが、アマチュアバンドボーカルの8割は大声を出し過ぎが原因で、ミックスボイスから遠ざかっています。
もちろん声量があるに越したことはないですが、決して『声量がある≒歌唱力がある』ではありません。
だって考えてみてください、例えばKing Gnuの代表曲『白日』。囁くようなウィスパーボイスが印象的な曲ですよね?
そうです、アマチュアバンドボーカルが大声を出してしまう最大の要因として、楽器隊が音量を出し過ぎ問題があります。
楽器隊にミックスボイスの知識が無い為に、ガンガン音量を出してしまうせいで、ボーカルが負けじと大声で歌うという、負のスパイラルに陥るのです。
ライブハウスのPAさんとかも、ミックスボイスの知識が無いので、「もっと楽器の音量を下げるように」といった注意ができない場合が多いです。
シンガーズフォルマントの重要性
実は※「シンガーズフォルマント」という、ミックスボイスを劇的に鳴らす技術があります。
大きな声ではなく、「鳴る声」で歌えるようになることが重要であり、その為の技術です。
Saucy DogやMY FIRST STORYといったバンドのハイトーンシンガー達は、このシンガーズフォルマントをバリバリ鳴らすので、あれだけ高音が鳴るわけです。
根本要(スターダスト☆レビュー)の証言
2023年9月17日放送のテレビ朝日『関ジャム 完全燃SHOW』にて。
プロも唸るロングトーンの持ち主である根本要さんが、声量について貴重な証言をなさいました。
スターダスト☆レビュー・根本要はプロからロングトーンの歌声を絶賛されている。根本はそのヒミツについて「力を入れず、声をマイクに細く長く入れるだけ」と明かし、マイクの音量はスタッフに調節してもらっているため小さな音量で長く歌うことが可能だと話した。
https://datazoo.jp/tv/%E9%96%A2%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%A0+%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%87%83SHOW/1666716
また、マイクを離して歌うことは声が逃げてしまうためもったいないと語り、根本はマイクを口に近づけ声をすべて入れるよう意識していると明かした。
https://datazoo.jp/tv/%E9%96%A2%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%A0+%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%87%83SHOW/1666716
根本さんのようなバンドボーカルでも、実力者はロングトーンですら小さな声で細く長く、歌われていることが判る貴重な証言です。
「クラシックのようにマイクを使わないなら話は別」と前置きした上で、「我々はマイクを使うのだから、マイクに頼ろう」という旨の話をされていました。
桑田佳祐の逸話
コブクロがMステに出演した際に、桑田佳祐に対してこのように語っていたそうです。
「その時に初めて、桑田さんの息の量の少なさが分かったんです」と明かしたのだ。司会のタモリだけでなく、桑田佳祐も首をかしげていた。 そこで小渕が「凄く似てないものまねをしますけど…」と桑田のような表情で、「いつもいつも…」と『C調言葉…』の出だしを歌ってみせた。「これくらい小さい声で歌っているんです。これで喉の力がホワっと抜ける」と説明する。
https://www.excite.co.jp/news/article/Techinsight_20130727_76647/
桑田佳祐ってむしろ大声で力強く歌うイメージがあると思いますが、モノマネで誇張されている所もあり、実際はそうでもないのです。
最近の路上シンガーがマイクを使う理由
これはかなりの余談ですが、最近の路上ミュージシャンて、ちゃんとマイクを使いますよね?
もちろんみんなが皆ミックスボイスでは無いですが、路上でマイクを口元にべったり付けて歌う人は特にミックスボイス率が高いです。
昔、ゆずが全国ツアーを行った際、ツアーの最終公演では声が枯れてしまって、まともに歌えなかったことが有りました。
因みにゆずはツアーの際、ホテルの浴槽で扉を全開にした状態でシャワーを出し、喉が乾燥しないように湿気を充満させるほど意識は高いのですが…。
まとめ
確かに声量は有るに越したことはありませんし、Superflyや西川貴教など、歌唱力≒声量というイメージがある人が多いのも事実です。
ですが彼らはプロの中でも特殊ですし、特殊だから売れているとも言えます。
逆に、囁くようなウィスパーボイスで高い評価を得ている歌手も沢山いますので、声量に拘らず、大きな声より鳴る声・通る声を目指してミックスボイスに向き合って欲しいです。