小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
ミックスボイスは声帯の閉鎖と厚さでコントロール
ミックスボイスの具体的な練習法を語る前に、大前提としてミックスボイスというのは、「声帯の閉鎖と厚さ」でコントロールするものです。
そもそも、ミックスボイスとは何者なのかについては、「ミックスレジスタという声帯振動パターンである」と、既に別の記事で詳しく解説しています。
ややこしいのが、ミックスボイスは色々な語られ方をします。
ミックスボイスは、地声と裏声の中間です。
ミックスボイスは、裏声で声帯の完全閉鎖です。
ここで念頭に入れておいて欲しいのは、ミックスボイスを獲得する為には、「バランスのいい声帯の閉鎖と厚さを身に着けて行かなければいけない」ということです。
声帯の「閉鎖が強すぎず、弱すぎず、厚さが厚すぎず、薄すぎず」といった状態です。
つまり、これから説明する具体的な症状別の練習法は全て、最終的にはこの「バランスのいい声帯の閉鎖と厚さに整える」という認識を持って取り組んでください。
4 VOICE TYPEとい概念
この記事をご覧いただいている方の多くはきっと、ミックスボイスに興味・関心がある方だと思いますが、4ボイスタイプをご存知でしょうか?
これは俗にいうハリウッド式メソッドと呼ばれるボイトレ手法における概念です。
- ハリウッド式メソッド
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セス・リッグスという、マイケルジャクソンやスティービーワンダー、マドンナといった数々のスーパースター達を育成した実績を持つ全米ナンバーワンのボイストレーナーが考案したボイトレの手法。独自の発音(母音・子音)と音階(スケール)を組み合わせた発声練習により、バランスのいいミックスボイスの状態へと導いていくことを主たる目的としている。近年この手法には、れっきとした科学的根拠があることが解明されてきたことにより、より一層注目されている。
ハリウッド式ボイトレメソッドでは発声のタイプを4つに分類しています。
- プルチェスト
- フリップ
- ライトチェスト
- ミックスボイス
ハリウッド式ボイトレについてより詳しく知りたいという方は、下記の添付をご参照ください。
ミックスボイス以外の、ボイスタイプ別に歌手を紹介した記事も執筆しています!
それでは先ず、それぞれのタイプを図を交えて紹介していきます。
プルチェスト(通称:プル)
地声を無理やり張り上げて発声している、とても危険な状態です。音程はフラット(下がる)傾向にあり、声帯にかかる負担も大きく、いかんせん歌っていて苦しい、ポリープや声帯結節といった故障のリスクも高まります。
参考までに、私がプルチェストとミックスの違いを実演したショート動画があるので、添付しておきます!
フリップ
地声から裏声にポッキリと折れてしまう状態です。安全性の面では裏声に力を逃がせている分、プルチェストと比べると幾分マシと言えますが、プルでも最終的には地声の限界に到達することでフリップします。
ライトチェスト
地声をほとんど使えていない、低音域でも裏声の筋肉が優勢に働いた声がスカスカな状態です。音程は上ずる傾向にあり、日常生活でも極端に声が小さく聞き返されることが多い人や、声楽・合唱でのソプラノ経験者にも多々見受けられます。
ミックス
地声から裏声の音域までトーンの解離がなく、一本に繋がった状態です。裏声もいわゆるファルセット(芯のない裏声)ではなく、ヘッドボイス(芯のある裏声)と繋がるため実用的です。声帯への負担も少ないので、声枯れや故障のリスクも軽減できます。
ヘビーチェストという概念を加える
低音域だからこそ声帯が必要以上に分厚く接触し過ぎている状態をELEGANT VOICEではヘビーチェストと定義し、5ボイスタイプで捉えています。プルと併発しやすいですが、それほど極端に叫んだりはしていなくても、そもそもの声帯が分厚い人は声が重くなりがちです。
私は更にヘビーチェストという概念を加えて5ボイスタイプで捉えています。
プルと併発しやすいですが、それほど極端に叫んだりはしていなくても、そもそもの声帯が分厚い人は声が重くなりがちです。
この状態からミックスに入れたとしても、グラデーションに違和感を覚えます。
ボイスタイプ別のミックスボイス練習法
ボイスタイプに関する理解が深まったところでいよいよ、それぞれのタイプ別にミックスボイスの練習法を解説していきます。
自分がどのボイスタイプか分からないという方は、下記添付の記事にて見分け方を解説しています。
プルチェスト(通称:プル)からミックスボイスを習得
プルは地声を張り上げてしまう人ですので、叫び辛いツールを組み合わせるのが基本です。
- 1.5オクターブ・スケール
- Nay(ネイネイネイ…)やWee(ウィウィウィ…)の発音
- 1オクターブの降り(ドソミド)のみスケールで裏声音域から下降
1.5オクターブメロディーを使って、Nay(ネイネイネイ…)やWee(ウィウィウィ…)で発声してみてください。
Nay(ネイネイネイ…)もWee(ウィウィウィ…)も叫びずらい発音ですが、ネイがナイのようにア母音になったり、ウィがウェイとエ母音になったりしないように、母音のクオリティーを徹底する必要があります。
1オクターブの降り(ドソミド)だけを使って、地声では絶対に届かない高音域から裏声で低音域側へ下降していくのもいいアプローチです。
参考になりそうな動画を貼っておきます!
いずれにせよ、プルの人は地声と裏声が急激に変わってしまうので、なるべく地声と裏声のトーンを近づけることを意識してみてください。
地声は裏声のように柔らかく、裏声は息漏れしたファルセットから、少しづつ息漏れを無くした芯のあるヘッドボイスへとステップアップしましょう!
フリップからミックスボイスを習得
フリップは声が裏返ってしまう人ですので、あえて裏返りようがない超高音域(既にすべて裏声)からのアプローチが有効です。
- 5トーン・スケールで超高音域から低音域側へ下降
- Nay(ネイネイネイ…)の発音
- ハミング
- エッジボイス(ボーカルフライ)
5トーンメロディーとNay(ネイネイネイ…)の発音を組み合わせて、超高音域から低音域側へ下降する練習をしてみてください。
声が裏返るということは、地声から裏声へ急激に声帯振動が変化してしまっているということです。
ハミングでも発声してみましょう!
エッジボイス(ボーカルフライ)と呼ばれる、ホラー映画の呪怨に出てくる俊雄のジリジリした声真似を加えてみるのも有効です。
先ずは裏声を強化して、声帯が閉鎖した芯のあるヘッドボイスを目指し、裏声を地声に近づけていく練習をしてみてください。
ライトチェストからミックスボイスを習得
ライトチェストは地声が弱すぎる状態ですので、地声の強化が最優先です。
- 5トーン・スケール
- Guh(ガッガッガッ…)やBuh(バッバッバッ…)の発音
- 日本語にないアップルのAEという発音
- 舌を出した状態での発声練習
このタイプは地声が苦手な分、逆に裏声は得意な人が多いので、地声がしっかり出せるようになるとそのままミックスボイスが完成する人も珍しくありません。
ライトチェスト対策と言えば、この5トーンです。Guh(ガッガッガッ…)やBuh(バッバッバッ…)といった発音で、とにかく低音域を徹底して発声してください。
ライトチェスト対策の動画を添付しておきます。日本語にないアップルのAEという発音や、舌を出した状態での発声練習も有効です。
地声強化はとにかく、なりふり構わず思い切って声を出すマインド的な部分も大事です。
特におしとやかな女性は、人目のないところで大きな声を出してみましょう!
ヘビーチェストからミックスボイスを習得
ヘビーチェストは、プルと併発することが多いのですが、今回はミックスできているけどトーンのグラデーションに違和感を感じる…という方向けの対策です。
プルと併発して低音から高音まで叫んじゃう人は、先ずプル対策を優先して、高音で叫ばない練習をしてください。
- バックアンドフォース・スケールで、換声点付近を
- Nay(ネイネイネイ…)やWee(ウィウィウィ…)の発音
- ブロークンアルペジオ・スケール
バックアンドフォースで、換声点付近をNay(ネイネイネイ…)やWee(ウィウィウィ…)で発声してみてください。
このとき注意すべきは、急激に地声に降りないことです。ミックスと地声のトーンクオリティを揃えるために、とにかく地声を軽く柔らかく出すことに集中しましょう。
バックアンドフォースで上手くいくようになったら、クオリティを上げるためにブロークンアルペジオでも練習してみましょう!
ミックスボイスができているのに、トーンのグラデーションに違和感を覚える場合の多くは、地声が強すぎることが原因です。
その場合はミックスを強くするのではなく、地声を弱めるという発想で練習すると奇麗なミックスが習得できます。
まとめ
画像、動画、音声と非常にコンテンツボリュームのある記事になってしまいましたが、最後までお読みいただいた方は、本当にありがとうございました。
ですがそれでも、この記事で紹介できたエクササイズは代表的なモノがほんの一部です。
実際には自分のボイスタイプを正確に診断し、適切なエクササイズを選択するの難易度が高いです。
録音しては聴き返すという、トライ&エラーを繰り返しながらミックスボイスを習得するというのは、根気がいる作業ですが、諦めずにチャレンジし続けてくださいね!