小久保よしあき氏(ボイトレエンタメユニットBRIDGE はる先生)からSVCライセンスを付与された、科学的ボーカルコーチの“ボイトレ王子”こと、エレ様です。
SVCのライセンスを取得する際に、ウン十万円掛けて学んだ全知識、いやそれ以上の情報を、こうやってコラムとして無料での公開に踏み切りました!
ミックスボイスが一向に出せずに、悩んでいる人は多いと思います。
23歳の時に受けたオーディションで、審査員を務められた楽器店のスタッフさんから、「音程が全く合っていない」と指摘されたことが悔しくて、そこから全てをボイトレに捧げる私の人生がスタートしたのです。
鹿児島中のボイトレ教室でレッスンを受けては、上達するどころかむしろ下手になる…なんて日々を過ごしていました。
そうです、何を隠そう私はかつて、いわゆる『ボイトレ難民』だったのです。
今回の記事では、私の経験談を基に話を進めていき、チェストボイス(地声)の重要性をお伝えいたします。
「地声なんて皆が出せるんだから、練習なんて必要ないでしょ」と、思っている人にこそ読んで欲しい内容です。
ミックスボイスを習得したら人生が変わった
いい加減、鹿児島のボイトレ業界に見切りをつけた私は、32歳の時に(今思うと何故、20代で見切りを付けられなかったのか…)、三重県の【KUBOTA MUSIC】でミックスボイスの短時間集中レッスンを受けたことで、人生が一変します。
私はオプションで1時間追加して、計3時間のレッスンを受けて、鹿児島へと帰って参りました。
それからというもの、KUBOTA MUSICで教わったことを毎日、来る日も来る日も反復して練習する日々の始まりです。
余談ですが、カラオケの機材トラブルにより、練習していた曲のショートver.が歌えなくなり、ぶっつけ本番でロングver.を歌っての結果です。
審査員からは、「あの機材トラブルがなければ…きっと優勝できていたよ」とまで言って頂けたのです!
プロ歌手でも発声のバランスを崩す理由
ミックスボイスを習得したことで人生が一変した私でしたが、次第にその雲行きが怪しくなってきます…。
ミックスボイスだけでは飽き足らず、※ベルティングという、ミックスボイスよりも力強い発声を習得するためのレッスンを、オンラインで受け始めたことがキッカケでした。
ベルティングは、ミックスボイスよりも声帯を分厚く、ベッタリと接触した状態で発声する技法です。
これが原因で、声帯を分厚く使う方向に発声のバランスが偏ってしまい、元々のミックスボイスで発声していた声帯を薄く使うバランスに戻せなくなってしまったのです。
発声のバランスというのは毎日反復することで整い、維持されるものですので、極端に偏ったバランスの練習ばかり繰り返していると、その偏ったバランスが刷り込まれて行ってしまうわけです。
分かりやすい例えでいえば、野球のメジャーリーガーが※ホームランダービーに出場した際に、アッパースイングで大振りを繰り返す為、シーズンに戻るとスイングのバランスを崩し、成績が急降下するといった話と全く同じなのです。
現在のルール(2015年以降)
4分間に球数無制限で本塁打数を争う。途中1回45秒間のタイムアウトが可能。決勝では1回30秒のタイムアウトが追加される。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E5%A1%81%E6%89%93%E7%AB%B6%E4%BA%89_(MLB)
大谷翔平選手もホームランダービーに出場した際、それ以降シーズン中のホームラン数が激減してしまい、心配されたことがありましたよね。
メジャーリーガーのような超一流の野球選手ですら、たった「数分間のホームランダービー」でバッティングのバランスを崩してしまう程、人間は繊細な生き物だということです。
ライブで歌っていると、次第に声帯が分厚い方に発声が偏る為、メンテナンスとして、ボイトレで発声を軽いバランスに整えるわけですね。
人によっては、ツアーにボイストレーナーを帯同させ、毎回ライブ終わりに即メンテナンスをする歌手もいますよ。
チェストボイスが原因でミックスボイスが裏声っぽい?
ミックスボイスで歌えるようになりたいと思っている人は、当然ですがミックスボイスの練習をします。
ですが中には、ミックスボイスに注力する余り、チェストボイスが疎かになっていることが原因で、ミックスボイスに辿り着けていない人がかなりの割合で存在します。
かく言う私も、ベルティングの練習ばかりをおこなっていたことが災いし、適切なチェストボイスの厚みが分からなくなっていたのです。
因みにミックスボイスというのは、音声学的には※ミックスレジスタと呼ばれる声帯振動パターンのことです。
名称はどうだっていいのですが、大切なことは、ミックスボイスにはミックスボイスの声帯振動パターンが存在し、地声には地声の声帯振動パターン、裏声には裏声の声帯振動パターンがあるということです。
この各々の声帯振動パターンが余りにも独立してしまうと、綺麗に繋がって聴こえません。
「ミックスボイスが裏声っぽいからミックスボイスを鍛える」という発想から一度離れ、「地声が分厚すぎるせいでミックスボイスが裏声っぽく聴こえてしまっている」という可能性を疑って欲しいのです。
つまり、裏声は地声側に歩み寄り、地声は裏声側に歩み寄ることで、違和感なくキレイにミックスされるわけですね!
チェストボイス(地声)に目を向けよう!
重複しますが、ベルティングという発声は、高音域でも声帯が分厚く接触する発声法です。
即ち、ベルティングの訓練においては、低音域から声帯をしっかりと接触させ、高音域でもその状態をキープするようにおこなっていきます。
ですがミックスボイスでも同じように、チェストボイスを余りにもしっかり使ってしまうことで、チェストボイスの声帯振動パターンと、ミックスボイスの声帯振動パターンが乖離してしまい、低音から高音に掛けての声のグラデーションに違和感を覚えてしまう…という現象が起きてしまいます。
ちょっと難しい話になってきたので、図を交えて分かりやすく説明していきます。
先ず大前提として、ミックスボイスとは、平たく言うと「声のグラデーション技術」です。
ミックスボイスを分かりやすく説明すると、ブリッジと呼ばれる声(声帯)のグラデーション技術です。色が赤からピンクを通って白へと変化していくように、段階的に声(声帯)を薄くしていくことで、地声音域から裏声音域までを同等のトーンクオリティーで発声できるのです。
https://elegant-voice.com/method/
チェストボイスをしっかり使うということは、色で例えると赤が濃い状態です。
この赤が濃くなればなるほど、ピンクとのグラデーションの色味に差が出てしまいます。
つまり、このような色味のグラデーション状態になってしまうということです。
綺麗なバランスのミックスボイスの図と比較すると、赤の色味が濃い分、白い色がハッキリと目立ってしまっていることが分かるかと思います。
この状態を私は「ヘビーチェスト」と呼び、ミックスできているにも関わらず、声のグラデーションに違和感がある状態として定義しています。
ミックスを意識したチェストボイスが必要
「地声と裏声は繋がっている筈なんだけど…なんかしっくりこないんだよな~」って思っている人は、もしかするとこのヘビーチェストを疑ってみることで、綺麗なバランスのミックスボイスに整うかもしれません。
あるいは、「ミックスボイスが出来たり出来なかったりする」という人も、ヘビーチェストの可能性があります。
一般的に、「地声はしっかり使おう」という指導がなされることが多いのですが、ミックスボイスを意識した、ミックスボイスに繋がるチェストボイスは、場合によっては薄く、軽くしなければいけない(特に男性は注意)ということです。
参考までに、声を軽くする為に行った私のレッスン動画を貼っておきますね!
誰しもが、力強いパワフルな歌声に憧れを抱くと思います。
事実、私もそうでしたから…だからベルティング発声を習得しようと挑戦したわけですし。
ですが、ベルティングのような声帯を分厚く使った発声は、向き不向きの個人差があります。
諦めずに、是が非でも習得を試みましょう。
まとめ
チェストボイスは誰しもが普段から話し声として使う声ですので、「練習なんていらない」と軽視されがちですが、中にはチェストボイスが重すぎるせいで綺麗なミックスボイスが出せていないケースがあります。
ミックスボイスは、地声音域から裏声音域までを違和感なく繋ぐ、いわば「声のグラデーション技術」です。
チェストボイスが重すぎることが原因で、このグラデーションが上手くいかないヘビーチェストの疑いがある人は、チェストとミックスを綺麗なグラデーションで繋ぐことを意識して、チェストボイスを軽くする練習をおこなってみてください。